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全部床義歯概形印象採得のポイント

今回は当学会が推奨する全部床義歯の概形印象採得のポイントについて、初めての方でもお分かり頂けるように簡単にまとめました。
(各画像をクリックすると拡大画像を表示します。)

上顎

1.トレーの大きさ

コンパスを使用し上顎歯槽結節を覆う、やや小さめのものを選択します。

2.トレーの試適

上唇小帯との位置関係、また上顎歯槽結節を覆い頬粘膜を押し広げていないか確認します。

3.手指にて挿入

トレー単独では印象材が入りにくい上顎歯槽結節後方部や、気泡の入りやすい口蓋皺襞部へは手指で十分に挿入します。

4.トレーの挿入

後方部→前方部へトレーを圧接して、後方へ流れないように注意し、前歯部の口腔前庭部まで印象材を確保します。

5.筋形成(機能運動)

「いー」、「うー」、「おー」、吸啜を行います。

6.チェック

・ハミュラーノッチが含まれているか。
・上顎歯総結節後方のポケットが十分に再現されているか。
・口蓋小窩が含まれているか。
などを確認します。

下顎

1.トレーの大きさ

コンパスを使用し、レトロモラーパッドの内側が十分に入るように少し大きめのトレーを選択します。

2.デンチャースペースの確認

頬棚部分の印象域は、エアーシリンジを一定の圧力で吹きつけて、デンチャースペースを確認します。外頬部に手を当てて、エアーが強すぎないか確認します。

3.トレーの試適

小帯との位置関係、レトロモラーパッドを完全に被覆しているかを確認します。

4.患者練習

後顎舌骨筋窩の印象を確実に採得するためには、トレー挿入時に舌を前方に突出させます。患者さんに舌を細長くして前に出す練習をしてもらいます。
※シリンジを使用する方法もありますが、シリンジで後顎舌骨筋窩に印象を注入するのは大変危険です。特に無歯顎高齢者の方は誤嚥・窒息のリスクが高いため、シリンジの使用は絶対に避けるべきです。

5.トレーの挿入

下顎の印象はトレーに盛り付けた印象材で一塊として口腔内に挿入します。その際、印象材表面は、水で濡らして形を整えます。後顎舌骨筋窩に相当する位置はしっかりと印象材を盛り上げておきます。

6.機能運動(顎堤の条件により、行うかどうか決定します)

・顎堤の条件が良好の場合 → 「いー」、「うー」、「おー」、吸啜を行います。
・顎堤の条件が不良の場合 → 機能運動は行わず、粘膜を顎骨に密着させた印象をとります。
※モンゴロイドである日本人は、顎堤の条件が不良の場合が殆どです。

7.チェック

・レトロモラーパッドが全て入っているか。
・顎舌骨筋線を超えて後顎舌骨筋窩が十分に再現されているか。
などを確認します。

本学会の推奨する、全部床義歯の概形印象採得法を簡単に説明しました。
概形印象採得時に今回示した臨床上のポイントをおさえることで、患者さんの負担も少なく、効率のよい、しかも解剖学的ランドマークを含んだ概形印象が1回法で常時採得可能となります。これにより的確な診断用模型が製作できます。

本ページの内容は、『月刊「歯科技工」別冊 デザイニング・コンプリートデンチャー』医歯薬出版株式会社 より引用しております。さらに詳細な内容は書籍を御覧ください。